思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『裏山の奇人』からの引用3

生態系の頂点に立つような動物ならまだしも、何かに紛れて侵入してくる生物の場合はこの通りのような気がしますね。皮膚常在菌や腸内細菌などもバランスが崩れてしまうと、外部からの厄介な侵入をゆるしてしまうと言われていますからね。バランス大事。

この切り開かれた場所には、悪名高い侵略的外来種アフリカマイマイ Achatica fulicaが少なからず住み着いている。農作物を荒らす厄介者あるいは危険な病原寄生虫の運び屋として、日本の沖縄でも問題になっているカタツムリだが、東南アジアにも多い。ところがこのアフリカマイマイ、一歩でもジャングルに踏み込むとまったく見つからない。なぜなら、この森のなかにはアフリカマイマイの侵入を拒む天敵が高頻度で、しかも二種類も住んでいるからだ。一つは、大人の親指ほどの長さと太さもある巨大なホタル。もう一つがジュウタンハシリハリアリだ。前者はカタツムリを完全に食い尽くしてしまうが、後者はおそらく好んで食べないものの、行列の行く手にカタツムリが現れれば集団で攻撃を仕掛ける。軟体部を毒針で寄ってたかって刺され続けると、アフリカマイマイはその場でぐったりして死ぬ。在来種のカタツムリならば、たぶん殻口に厚いフタを持ったり、天敵が多い地表を避けて生活するなど、長らく共存してきた大型ホタルやアリの攻撃を避ける術を持っているのだと思う。だが、よそもののアフリカマイマイにはそれがないので、あっさりやられてしまう。かくして、外来種の森への侵攻は防がれるのだ。このジャングル内のすべてのハビタットは、こうしたホタルやアリはもちろんのこと、すでに多くの在来の生き物たちが占拠している。外来種の入り込む余地など、最初からないのである。
昨今、外来種の侵入が各地で問題になる世だが、もともとの生態系や生物多様性が保たれた状態の地域なら、たとえよそからへんな生き物が入り込もうとしても定着できずに終わるものだ。外来種に入られてから莫大な予算を投じて防除に四苦八苦するよりは、現地の生物多様性を温存し続けるほうが、よほど安上がりで確実な外来種対策ではないのか。アリに、無言でそう語りかけられた気がした。

裏山の奇人 P120『第3章 ジャングルクルセイダーズ』 より

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

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