思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『裏山の奇人』からの引用2

ファイヤーアント、厄介ですねえ。コロニーの中にそんなにたくさんの女王が存在していたら、それは根絶出来ないはずです。日本本土にはまだ侵入例がないと思いますが、いつかは侵入してくるのでしょうかね。今のうちから、環境負荷の小さな対応策があると安心感あります。もちろん、侵入されないのが第一ですけれども。

近年、物資の移送にともなって繁殖力の強い侵略的外来種アリが侵入し、その土地固有の生態系、あるいは人間の経済活動に大きな悪影響を与える事例が、地球規模で起きている。こうした人為的な要因で分布を広げるアリのことを、「放浪種」とも言う。

---中略---

こういうアリは、一度定着すると駆除が難しい。アリの巣というのは女王を殺せば消滅すると思われているが、放浪種の場合一コロニー内に女王が何十匹もいるから、たった一匹でも女王を駆除しそこねれば元の木阿弥だ。諸外国ではこうしたアリを駆除するため強力な殺虫剤を撒いた歴史もあるが、それらはたいてい環境を汚染し、生態系を撹乱しただけで終わっている(東ら、二〇〇八)。各国の研究者たちが、これら厄介な外来種アリの防除法の開発に躍起になっているが、いまだ決定打が打ち出せずにいるのだ。
そんな防除法のなかで比較的うまく行きそうな様相を呈するものの一つに、アリのスペシャリスト天敵、つまり好蟻性生物の利用がある。例えば、いまや世界各地に分布を拡大した毒アリ・ファイヤーアント(アカヒアリ)Solenopsis invictaは、様々な移入国先で猛烈に大繁殖し、その強力な毒針で土着性物の生息、はては人間の健康まで脅かしている。しかし、その原産国とされる中南米では、こうした「暴走」は認められない。なぜなら、原産国にはこの毒アリと古くから関わり続けてきた多くの好蟻性生物(寄生性ノミバエ、病原性微生物)がおり、これらの寄生や捕食が毒アリの増殖を抑えているからだ(図2・30)。南米では、じつに一〇〇種近い好蟻性生物がファイヤーアントと関わり、そのうちのいくつかは有力な天敵として作用する可能性がある(Wojcik, 1990)。現在、この毒アリの侵入地域では試験的に寄生性ノミバエを放すことで、一定の防除成果がでているようだ。もっとも、天敵というのはあくまで害虫の密度を抑えるのには役立つが、滅ぼすことはできないものである。自らの餌を滅ぶまで狩りつくすバカな動物は人間くらいしかいないことは、昨今のウナギやマグロをめぐる状況を見ればわかるだろう。しかし、こうしたファイヤーアントの天敵は、ファイヤーアントだけを標的にするはずなので、殺虫剤の散布に比べれば土着生態系に与える負荷は最小限に抑えられるはずだ。

裏山の奇人 P109『第2章 あの裏山で待ってる』 より

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

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