思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『イマドキの動物 ジャコウネコ』からの引用6

パームシベットの散布者としての特性が、食肉目としての習性に強く関連している点を指摘できる。たとえば、種子のほとんどが破壊されずに排泄されるのも、彼らの食肉目としての特性を反映したものだ。果実食動物の多くは、発達した臼歯で果実を十分に咀嚼してから体内に取り込む。その方が、難分解性有機物の消化管での分解・吸収効率が上がるためだ。咀嚼する間に、種子が傷つけられたり、かみ砕かれてしまうことも多い。しかし、パームシベットの歯の形態は、肉食動物のものと同様に、果実を咀嚼するのに十分適した歯の形態をもつわけではない。その結果、種子は歯で傷つけられることのないまま、体内に取り込まれる(そして、速やかに排泄される)。彼らはそういう採食戦略をとっている生物なのだ。また、パームシベットが、長距離散布できたのも、種子を飲み込むことにくわえて、長時間同じ採食木にはとどまらず、短時間で移動してしまうことによっている。さらに、彼らが光環境の優れた場所に選択的に糞をしていたのも、糞の匂いをコミュニケーションの手段として活用するという食肉目の習性の一つだった(もっとも、これは、果実食への不適応と別のものだが)。パームシベットは、「食肉目であるにもかかわらず」重要な種子散布者だ、という表現がしばしばなされる。しかし、実際には、彼らが「食肉目であるがゆえ」に、ユニークかつ重要な種子散布者として機能していたといえるのだ。

イマドキの動物 ジャコウネコ P171『第3章 種子散布者としてのパームシベット』 より

イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記 (フィールドの生物学)

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