思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『イマドキの動物 ジャコウネコ』からの引用7

人の活動が動物の食資源量を増加させ、動物にとって好適な環境を創出しているという構図は、タビンと共通したところがある。しかし、ガボンの事例は、さらに興味深いところがある。「人―サバンナ―大型草食動物」という関係性が、相当の長期間にわたって維持されてきたものである可能性が高いという点だ。ムカラバから二五〇キロメートルほど北部に位置するロペ国立公園(図4・1)でも、ムカラバ同様、人為的に維持されてきたサバンナがみられる。炭素安定同位体年代測定法を用いた研究によれば、人為的な野焼きは、約九〇〇〇年もの間継続しておこなわれてきたらしい(White 2001)。直接の証拠はないが、おそらくムカラバのサバンナも、同程度の歴史をもつものだろう。アフリカの熱帯雨林は、過去の気候変動に大きな影響を受けており、数百万年の単位で、歴史的に何度も縮小断片化を経験してきたことがわかっている。一番最近の大規模な寒冷化・乾燥化は、わずか二五〇〇年ほど前のことで、その頃には、現在のガボン国域には、森林はほとんど残されていなかったらしい(Maley 2002)。その後、地球の温暖化・湿潤化とともに森林は徐々に回復し、ほとんどの面積が森林によっておおわれるようになった。かろうじて、野焼きという人間の「文化」によって、かつてのサバンナが維持されてきたのだ。熱帯雨林といえば、常緑の森林が時間的にも空間的にも安定して成立しているというイメージが強いかもしれない。しかし、実際には、過去に気候変動と人間の活動によって、なんども攪乱を経験してきた複雑な歴史を負った場所なのだ。

イマドキの動物 ジャコウネコ P185『第4章 多様な熱帯雨林』 より

イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記 (フィールドの生物学)

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