思考の消化器官

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『パンダ ネコをかぶった珍獣』からの引用3

クマ類はほとんどが冬眠するでしょうから「着床遅延」が必要なのは何となく理解出来る気がしますが、パンダはどうしちゃったの、という感じがします。何というか、全てにおいて不器用な生き物なんだなあ、と思ってしまいますね。いや、そうやって生き残ってきたのですから、それが必要であったのでしょうけれども。

私たちヒトの場合、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンから、受精2週間後くらいの早期に、妊娠を知ることができる。このホルモンは、受精卵が子宮内膜に着床した後に、胎児の一部であり、胎盤の一部をなす栄養膜細胞から分泌されるものだ。市販の「妊娠検査薬」も、これを検出するものである。
しかしパンダの場合、hCGにあたる胎盤性のホルモンの検出方法が確立されていない。だから、ヒトのように簡便な早期妊娠診断ができないのだ。
胎児側が無理なら、母体側で調べることはできないか? これがまた厄介な話で、たとえばヒトでは、排卵後に受精・着床がおこらなければ、卵巣の黄体は退行してしまい、妊娠へのステップがそれ以上進むことはない。しかしイヌやパンダでは、排卵後、妊娠、不妊にかかわらず、ある一定期間は黄体の機能が維持される。そして黄体からは妊娠を維持するプロジェステロンというホルモンが分泌され、たとえ妊娠していなくとも、体は「必ず」妊娠した状態になってしまうのだ。まるで妊娠したかのような行動が出ることこもあり、これがいわゆる「偽妊娠」という状態だ。つまり、パンダのしぐさが「妊娠したっぽい」からといって、早とちりは禁物なのである ― 「偽の」シグナルかもしれないのだから。
さらにやっかいなのは、他のクマ類でみられる「着床遅延」という現象が、パンダでも起こっているらしいことだ。これは、卵が受精しても、受精卵が子宮内で着床せず、途中の発生段階のまま何ヶ月も浮遊するというもの。交尾あるいは人工授精の日から数えたパンダの妊娠期間が最短で70日からなんと342日までばらつくのは、この現象のためとされている。つまり、ヒトとちがって、交尾日からおよその妊娠成立日を予想するのもかなり難しいのだ。

パンダ ネコをかぶった珍獣 P73『4 リーリーシンシン、繁殖の舞台裏』 より

パンダ――ネコをかぶった珍獣 (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)

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