『食の文化史』からの引用5
この歴史の後にトランス脂肪酸問題があったり、またトランス脂肪酸を低減したマーガリンが開発されたりとその歴史は積み重なっていますね。100年後にはマーガリンという食品がどう評価されているのか楽しみです。
マーガリンは約百年前の一八七三年、普仏戦争のときフランスではバターが欠乏し、ナポレオン三世がバターの代用になるものの懸賞募集をしたことに端を発した。これに応じてメージュ・ムリエという化学者が、牛脂中の軟質部を用いて、牛乳と共に乳化してバター様のものをつくって賞を得た。これより前の一八一九年、シュヴルーイは、動物脂肪の構成脂肪酸の一つにマーガリン酸(margaric acid)と名付けた。「真珠のように光り輝く」という意味で、ギリシア語で真珠を意味するマーガライト(margarite)からとったものだという。そして、このマーガリン酸のグリセライドと目される脂肪をマーガリンと呼んだ。その後、シュヴルーイの「マーガリン酸」は、実は二種のほかの脂肪酸(パルミチン酸とステアリン酸)の混合物にすぎないことがわかった。
ムリエの発明は、その五十年ほど後のことで、彼はこの誤った、今は不要となった化学名をそのまま採用して、自分の製品に名づけたわけだ。おそらくムリエの頭の中にも、自分の発明品と真珠の輝きとの連想があったのであろう。その後マーガリンは、オランダ・イギリス・デンマークなどで盛んに用いられ、アメリカで流行していった。初めは、バターの風味の秘密は牛の乳房にあると考え、牛の乳腺をかゆ状にして混ぜる、というような工夫もされたという。
その後、香料の研究も進み、硬化油の発明で植物油からでもつくれるようになって、牛脂さえ不要となり、脳卒中や心臓病などの原因であるコレステロールの沈着と動物脂肪との関係が問題となってきたこんにち、マーガリンは単にバターの代用品としてではなく、バターと確実に対抗できる食品としての地位を築いてきた。
食の文化史 P120『バターの話』 より
- 作者: 大塚滋
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