『食の文化史』からの引用3
フランスの滞在経験があるからかもしれませんが、世界中で馬鹿にされることの多いイギリスの料理で育った人とは思えないほどに、サラダに対してのこだわりがありますね。まあ、イギリスの人は料理に対してのこだわり自体はあるのかもしれませんけれどもね(味が追い付いていないだけで…)。
ジョン・イーブリンはイギリスの日記作家だが、若いころにパリに行っていたので、フランス風のサラダについて見識を持つようになったのだろうといわれる。『アケタリア』というのは「野菜を酢で料理する」という意味のラテン語だということで、つまりはこんにちのサラダを表わす言葉だといえよう。イーブリンは、この本の中ではじめて、「サラダとは生野菜の配合料理」と定義した。そして「完全なサラダ」とは、「苦みと辛味があり、穏和であって無味であり、たちどころにぴりっとする、生き生きした食べものであるように、正しい配合をしたものでなければならない」、「その配合においてはどの植物もそれ自身の持ちまえを守り、与えられた役割を果たさねばならない」と延べ、ついに、「どの植物もあたかも楽譜における音符のようであるべきで、調子の悪い、耳ざわりな音を出してはならない。ときにはある種の不協和音を認めるとしても、それはより快活な、よりおだやかな音色ですべての不協和音を調和させ、それを快いコンポジションに溶け合わせるような、きわだった調子のものでなくてはならない」と、独特の「サラダ美学」に説きおよぶ。
この音楽的比喩をまじえた意見をきいていると、サラダにヨーロッパ人が感じているものは「芸術」そのものという気がしてくる。
食の文化史 P59『野菜と欧米人』 より
- 作者: 大塚滋
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1975/12
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (6件) を見る