『食の文化史』からの引用1
この手の話はよく見聞きしますが、もし宇宙で生活するようになったら現在の宗教から(良くも悪くも)解き放たれる方がいるということでしょうね。もちろん、中には原理主義的になる向きもあるでしょうけれども、きっと便利さと必要に合わせて、信仰も変わっていく部分もあるのでしょう。世界がそういう段階になるのを目にするには寿命が足りなさそうなのが残念なところです。
戒律のきびしい回教徒やインド教徒も、日本では豚を全然扱わないレストランなんて、まずないから、本国でのようにきびしいことはいわず、まあ豚肉だけは食べないことにしているようだ。しかし、外国にいるからといって、「例外」はいっさい認めない彼らは、日本の焼きめしや焼きそばのようなものが好きだが、たいてい豚肉加工品であるハムの切れっぱしが入っているので食べようとはしない。商売がら中東や東南アジアの学生と話をすることが多い。回教徒の一人に「ジェット機の中では豚は出なかったか」と聞いたことがある。
「出た。ポークチャップだった」
「食べなかったか」
「食べた。うまかった」
「いけないんだろう?」
「地上ではいけない。しかし、私はそのとき、山よりも高いところにいた。あんな高いところを宗教は支配しない」
――アラーの神が山にいるのか天にいるのか、聞き漏らしたが、とにかく、これが私が耳にした唯一の“例外”だ。
食の文化史 P16『豚肉考現学』 より
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