思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『裏山の奇人』からの引用7

せっかく産卵した寄生バエの卵の結末がなかなか切なかったですね。切なくも、少しコント的で笑ってしまいましたが。

獲物を求めるグンタイアリ(とくに、コロニーサイズの大きいバーチェルグンタイアリE. burchellii。以下、グンタイアリとはこの種を指す)の行列が森に攻め込んでくると、それまで地面の落ち葉や倒木裏に隠れていた小動物が、食われたくないので慌てて地表に這い出し、わらわら逃げ出す。こうして地上にいぶり出された小動物を専門に襲って食う鳥「アリドリ」というのがいる。私はそれを以前から知っていたのだが、じつはこの鳥とまったく同じ生態をもつハエも存在したのだ。アリドリとは異なり、それらのハエはいぶり出された獲物を直接捕って食うのではなく、獲物の体に産卵する寄生者である。なかでも、ゴキブリを狙うタイプのハエがとても多い。グンタイアリの進軍に驚いて飛び出す小動物のなかでも、ゴキブリの個体数は抜きん出ているからだ。これらの寄生バエはあきらかに日中しか活動しないが、ゴキブリは夜行性だ。普通の状態では、ハエは活動時間帯の異なるゴキブリを自力で探せないが、グンタイアリの力を借りればそれが可能となる。これらの寄生バエはあくまでゴキブリなどの寄生バエであってアリの寄生バエではないのだが、「隠れた獲物をいぶり出す労働」という、アリに由来する「資源」を搾取することに特化した、立派な好蟻性生物といえる。もっとも、そうやってせっかくゴキブリに産卵したとて、その後その卵の大半がゴキブリもろともアリに捕まり食われることを考えると、ハエにとってこれがどの程度効率的な寄生戦略なのかはわからないが……。

裏山の奇人 P226『第5章 極東より深愛を込めて』 より

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

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