思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『イマドキの動物 ジャコウネコ』からの引用4

引用3の件を受けての内容です。私は年齢は関係ないと思いますが、これは生物学的なフィールドワークに限らず、どんな場であっても言えることではないでしょうか。武勇伝にしても説教にしても、特にweb上ではよく目にする気がしますしね。

余談になるが、自分のフィールドワークがいかに危険なものであったかについて、自慢げに語る生物学者がいる。一種の武勇伝なのだろうが、私はそれがあまり好きではない。そもそも、みずからの安全を十分に確保したうえで調査をおこなうのは、フィールドワークの基本で、それができなかったのなら、みずからを恥じるべきだ。それに、研究の価値と調査の苦労は、直接には関係しない。苦労して取得したデータであることをアピールすることは、データの価値を、科学的意義とは別の文脈で上げようとする行為にも感じてしまう。さらに、こういう話は独り歩きして、どんどん大げさな話になっていく傾向がある。私の話も、尾ひれはひれがついて話が広まった。ある学会で、ほとんど話をしたこともないような人から、「ゾウに襲われた人」として知られているということもあった。危険な目に合ったことは、ただただ恥じるしかない。
このことを断ったうえで本音を言えば、自分が遭遇した危険を自慢げに語る人より、「調査中の事故が、いかに多くの人に迷惑をかけるか」について訳知り顔で説教してくる研究者の方がもっと嫌いだ。とくに私より若い人が、そういうことを偉そうにぶっているのをみると本当に情けないと思ってしまう。「他人に迷惑をかけるな」型の説教じみたことを言う人は、フィールド経験の浅い研究者が多いように思う。そういうことを言うのが「大人な態度」だと思っている人が多いからだろう。どんなフィールドワークも一定の危険性を伴っている。細心の注意を払って調査に望むのは当然だが、せめて若い時ぐらいは、危険を顧みずに新しいことを明らかにしてやろうという野心ぐらいあってもいいのではないだろうか。

イマドキの動物 ジャコウネコ P108『第2章 タビンの森のパームシベット』 より

イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記 (フィールドの生物学)

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