思考の消化器官

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『シロアリ 女王様、その手がありましたか!』からの引用9

緊急事態の時のために90%以上ものコストを背負い込む、というのは凄い話な気がします。壊滅することを避けるのが第一なのでしょうね。自分自身も含め、日々のコストを出し渋って、壊滅的な打撃を受けるようなアレコレには学んで欲しいです。

シロアリはターマイトボールをせっせと卵塊中に運び込み、毎日、卵と同じようにターマイトボールもグルーミングする。それによって、ターマイトボールは発芽を抑制されるものの、乾燥や他の菌による腐敗から守られる。さらにシロアリは、抗菌活性のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、さまざまな微生物の侵入から巣を守っている。だからターマイトボールにとって、シロアリの巣内はいわば競争者のいない、じつに快適な環境である。
卵塊中のターマイトボールは古くなると形が変形し、ワーカーによって巣の内壁に埋め込まれて捨てられるが、巣の端々で発芽し、シロアリの排泄物や巣材を栄養源としてしたたかに繁殖し、新たに菌核をつくり、卵塊へと運ばれていく。こうしてターマイトボールは数を増やしていき、卵塊中の卵よりも、菌核のほうが多いこともしばしばある。
シロアリにとって、このターマイトボールはけっこうなお荷物であるようにも見える。ターマイトボールの発芽はグルーミングによって抑制されているものの、ごくまれに卵塊中で発芽し、周囲の卵を殺してしまう(図40)。さらにシロアリにとっては、毎日のグルーミングのコストも半端ではないだろう。コロニーによっては卵塊中の九〇%以上が菌核で占められているものまである。少なくとも短期的には、シロアリはターマイトボールによって一方的に不利益をこうむっているように見える。
しかし、とても興味深いことに、実験室でシャーレの中に卵を入れて、高温高湿度の条件(病気が発生しやすい条件)でワーカーに世話をさせると、ターマイトボールがあるほうが、ない場合よりも卵の生存率が高いことがわかった。ターマイトボール菌は他の糸状菌バクテリアに対する拮抗性を示すので、卵の病気からの保護に役立ったのかもしれない。
ただし、抗菌活性のあるシロアリの巣材をシャーレ内に一緒に入れておくと、ワーカーは卵を必ず巣材の上に移動させて保護する。この場合、卵の生存率はとても高く保たれ、ターマイトボールの有無による生存率の差はみられない。したがって、自然状態でいつもターマイトボールがシロアリにとって利益をもたらしているとは考えにくい。しかし、シロアリ自身では抑えられない病気が蔓延するような緊急事態には、ターマイトボールの存在によって壊滅を避けられるということもあるのではないだろうか。

シロアリ 女王様、その手がありましたか! P98『6 シロアリの卵に化けるカビ』 より

シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)

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