『軽症うつ病』からの引用5
1は特に心に留めておきたいな、と思いました。少し遅かったかもしれませんが、私の物申した件も他の人のためにもなっているといいなあ。
治療を終わるとき私がいうことはまったく常識的なことです。すでに何度か繰り返したことですが、まとめておきます。
(一)あなたが元気で仕事をしておられること自体が職場のメンタルヘルスの向上のために役に立っています。なぜなら、一言で精神的不調といっても、そのなかには十分回復できる場合があることを、あなた自身が元気に仕事をして下さることで皆に示せるからです。どうか、自分のためでもあり人のためでもあるので、心の安定に気をつけて下さい。
(二)できれば自分がした病気前や病中の経験を、同僚や部下にこれからおこるかもしれない心理的不調の賢明な処理のために活用して下さることをお願いします。これからの職場は今までよりストレスが増えることでしょう。同じような経験をされる方が残念ながら少なくないと予想されます。彼らは、あなたの場合がそうであったように、適切な処置さえうければ、十分に回復可能です。
その上、たとえ私企業であっても、弱者を身内に囲い込みながら進んでいくことを、社会から要請されています。その際に企業の一員として求められる成熟度とは、多分、ただやみくもに身体壮健な者だけの集団をつくることではないでしょう。
(三)あなたのうつ病がストレス病の一種であったとすれば、いままでのあなたの生き方に少し無理があったのかもしれない。しかし、人間が自分の生き方を変えるということは意外に大事業です。多分自分個人よりもあなたの「家族全体」の変貌といっしょでないと可能でないような気がします。少なくとも奥さんとときどき「生き方の修正」についてお話しになってはどうでしょう。家族に限らず、小集団は変貌の可能性を意外にもっています。
(四)最後に、病気を切り抜けた喜び、わずかな幸せへの感謝、時の流れからちょっと外れて立ち止まった人間にしか可能でない少々の脱俗性、人間の歴史とか成熟とかについての新たな関心、そういったことをどうぞ人生におけるささやかなプラスとお思いになって下さい。それは再発の予防にも一役買うかもしれません。
軽症うつ病 P229『第七章 職場のメンタルヘルスのために』 より
- 作者: 笠原嘉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/02/20
- メディア: 新書
- 購入: 9人 クリック: 120回
- この商品を含むブログ (28件) を見る