思考の消化器官

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『巨大翼竜は飛べたのか』からの引用3

前回の続きです。確かにこの衝撃的な映像を観たりすると、こうでもしないと飛べない、と思えてしまうのも仕方がないかな、と思えてきますね。

オオミズナギドリが離陸のために樹に登る様子を目撃してしまうと、その様子があまりにも印象深いため、第三者にそのことを語る際に、「樹に登る」ことから最初に語ってしまうのであろう。テレビなどでオオミズナギドリを紹介する場合も、おそらく印象深い光景として樹に登るシーンを使うことだろう。そんな背景から、いつしか「樹に登るオオミズナギドリ」という印象が世間に流布してしまったのではなかろうか。
面白いのは、「樹に登る」事実が先行して伝わったことにより、多くの人々がオオミズナギドリは「地上から直接飛び立つことができない」と思ってしまった点だ。たしかに、オオミズナギドリが大木の斜面をよじ登っていく様子は圧巻だ(口絵12)。爪を木の幹に立てて登るだけでなく、嘴も使ったり、翼を広げて時々羽ばたいたりして、相当苦労しながら登っているように見える。もしも地面から離陸できるのであれば、好きこのんでそのような苦行に勤しむはずはない。おそらく、やむにやまれぬ事情により、オオミズナギドリは樹に登るのだろうといった考察がなされたのだろう。やむにやまれぬ事情としては、地上から飛び立つ能力がないと考えるのが自然だ。
おかしなことに、オオミズナギドリが陸上から飛び立てないとする説と共に、いかにもそれらしい理由が本やテレビやインターネット上のブログなどで挙げられている。曰く、体が重い、翼が長い、胸筋力が弱いなどといった理由が記されているが、比較検討に必要な情報が添えられていることはない。

巨大翼竜は飛べたのか P182『第五章 樹に登らないオオミズナギドリ』 より

巨大翼竜は飛べたのか?スケールと行動の動物学 (平凡社新書)

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