思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『ピル』からの引用4

Wikipediaの水子の項を読むと、「水子供養」に関して「水子供養商法」という項を立てて、同様のことが書かれていますね。供養、という形式をとることで人生が続いていく側が少しでも救われる側面があるのであれば、完全に否定されるものでもないようには思いますが、やはりどうにもモヤモヤします。この辺りは基盤となる宗教的背景を失ってしまった多くの日本人のツラいところなのかもしれません。

ピルの問題は、日本人の中絶に対する考え方にも深くかかわっていると思います。そして、日本人の中絶観を考えるとき、切り離せないのが「水子供養」という問題です。
水子供養」は仏教と深く結びついていると誤解している人が多いようですが、実は、一九七〇年代の社会環境の中で生まれた、きわめて新しい「産業」なのです。
死産、人工妊娠中絶した胎児などを指す“水子”という考え方は、歴史上の産物として、古くからありましたが、日本では、胎児を供養の対象としてとらえるということはありませんでした。
七〇年代、日本では少子化が徐々に進行し、問題視されるようになっていました。政治の世界では、優生保護法(現母体保護法)を改正し、「経済的理由」による中絶を禁止して、出生率の低下に歯止めをかけようという動きが起きてきます。
水子供養」はきわめて政治的な問題であり、優生保護法改正をめざす勢力にとって、子どもをおろすことは罪悪だ、という考えを植えつけるのに好都合だったのでは? と私は考えています。
また、日本では、産むことを美徳と考える風潮が根づいているといえます。しかし、どんな状況におかれようと、絶対にあってほしくないのは、望まない出産をすることです。「産めばなんとかなる」などという無責任な姿勢で、子どもを産むことだけは避けるべきです。人工妊娠中絶は、女性の人生における一つの選択なのです。
一方で、日本では、他の国に比べて中絶が安全にできるため、あたかも中絶が避妊法の一つであるかのように位置づけられているという問題があります。これは、今に始まったことではありません。

ピル P181『第六章 ピルの将来展望』 より

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