『親指はなぜ太いのか』からの引用5
面白ではありますが、この手の説は不思議な魅力があるので気を付けないといけないんですよね。簡単に納得してしまえる方なので。
ダートは先駆者の常として、あるいは突破者の常として、自分の矛盾にはまったく気がつかない性格なのである。洞窟内にあるものは使うためであり、洞窟内にないものは使ったためであるという説明や、そこにないものからあるひとつの活動を説明するのは大胆と言う以外にはない。こういうことは随所に見られるが、最後にひとつだけ引用しておこう。
「肩甲骨はものを切る道具である。肩甲骨はインド=ヨーロッパ語では、切り裂く技術と概念とに、わかちがたく結びついている。」
肩甲骨は英語でブレイドであり、そしてブレイドは草の葉や刀の刀身を意味するので、ただ幅のある薄いものというより、何かを切るものという意味がそこに込められているというのである。しかし、だから何だというのか。アウストラロピテクスが洞窟内にある肩甲骨を刀として使ったという証拠として、英語がもち出されても、日本人には納得できない。だが、原論文の面白さはこういうところにある。きらめくアイデアも偏見も先入観も差別意識もむき出しなのだ。
親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る P170『第7章 初期人類の主食は何か?』 より
- 作者: 島泰三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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