『物語 英国の王室―おとぎ話とギリシア悲劇の間』からの引用2
前半はともかく後半の恥ずかしさっていったらないですね。英国紳士は何と言って切り出すのでしょうか。気になります。
いったん与えられた勲章は、取り消されることはないが、刑法上の重大な罪を犯したために勲位が剥奪されることはある。七九年一一月、アントニー・ブラントがソ連のスパイであったことから騎士位を剥奪され、九一年三月には、ギネス裁判というビール会社ギネス社での詐欺事件をめぐる裁判でジャック・リョンズが有罪となり、同じく勲位を剥奪された。アントニー・ブラントの場合、女王直属の「王室美術品監督者」として絵画などを永年にわたって管理していた功績からビクトリア勲章勲爵士という勲位を授けられていただけに、彼がソ連のスパイだったことは王室にとってショックだった。裁判で有罪となったものがすべて勲位を剥奪されるのではなく、懲役三ヵ月以上のものが対象となる。
しかし、その逆の場合のほうが多いのだ。勲位をもらったのはいいが、別の気に入らない人間が同じような勲位をもらった場合、あるいは政府の政策が気に入らないとき、勲位にともなうメダルなどの勲章をバッキンガム宮殿に突き返すことがある。ビートルズが騎士位を授与されることになったとき、あんなガキと一緒にされてたまるか、と何人もの”騎士”が勲章を女王に返したし、湾岸戦争のとき、英軍の介入に抗議してバッキンガム宮殿に勲章を返したものもいた。だが、バッキンガム宮殿としては女王が一度あげたものは女王のものではない、との立場から、勲章を宮殿にそのまま箱ごと保存しておく。実は返したはいいが怒りが冷めた後にまたほしくなって取り返すことができるかどうか聞いてくる人たちが多いのだ。だからバッキンガム宮殿はそうした”返却要請”にはつねに応じることにしている。やはり勲章にはだれも未練があるのだ。
物語 英国の王室―おとぎ話とギリシア悲劇の間 P18『Ⅰ 女王の生活と儀式』 より
- 作者: 黒岩徹
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1997/01
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