思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『人体 失敗の進化史』からの引用6

悪行に笑ってしまいました。ロンドンまでのフライト時、前日徹夜だったので離陸する時から着陸までずっと寝ていたら、隣の席の方に軽く怒られたことを思い出しました。若かったんですよ。

このエコノミークラス症候群なるものも、ヒト特有の血液循環の難点に忍び込んできた新しい疾患だ。着席したまま長時間過ごすことで、足先の低い位置に長時間血液が鬱滞する。搭乗中に飲水量が少ないなどして、血液が標準より水分を失っているときなどは、流れの淀んだ足先の血管に、血栓が生じてくる。血液はもともと凝固する性質をもっているから、うまく流れなければ、淀みの部分から、血液が固まりやすくなってしまうからだ。そうして、晴れて目的地に着いた乗客は歩き出し、また血流が活発になる。不幸にして足先で出来上がってしまった血栓が、身体中に流れ込み、たとえば最後には肺にまで到達して、肺の細い血管を埋めてしまう。そうなれば、肺のある特定の領域にまったく血液が届かなくなり、ついには生命に関わってくる。
だが、ヒト科は二本足で歩くようになって、ざっと五〇〇万年も生きている。その身体を、膝がつかえるほど狭いシートに半日も閉じ込めているのは、航空業界の資本主義と飛行機の居住性を発案する人間工学が、たった四、五〇年くらい前に生み出した悪行だ。しかも、何十年も前から同じ現象はあっただろうに、騒がれるようになったのはここ数年である。それを見るに、この辺になると、私はホモ・サピエンスの二足歩行に非を認める気にはとてもなれない。血流路を垂直に設計しなおした身体よりよほどおかしいのは、お金を取りながら十何時間も狭い座席にヒトを閉じ込めておく欧米の旅客機内装メーカーの方だ。

人体 失敗の進化史 P205『第四章 行き詰まった失敗作』 より

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