思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『人体 失敗の進化史』からの引用5

あまり考えたことがありませんでしたが、確かにキリンのあの首の長さ分を心臓が頑張って血液を送っているというのは相当な仕事量ですよね。送らない、という選択肢はない訳ですし…。ネッキングの時とかにフラっとしてしまったりしないのでしょうか。

背の高い動物でただ単純に貧血を防ぐためなら、心臓をもっと強力にして、血圧を十分すぎるほど生み出していけば、貧血を防ぐ決定打になり得ているはずだ。だが、それだけでは問題は解決しない。キリンもヒトも、いつも頭を空に向けて立っているだけではない。ヒト科は二足歩行を始めても、たとえば靴紐を結ぶような姿勢を普段から必要としただろう。飲水ひとつとりあげても、”原始的なヒト”は、頭を地面に向けて下げたはずだ。そのとき、ただ力任せに血液が脳に送られていたら、今度は脳にとてつもない高血圧がかかる可能性がある。キリンの頭部の血流も、そのことに悩まされているらしい。フルパワーで血液を送ってしまっていると、動作として頭を地面に向けて下げたときに、脳周辺を破壊するほどの血液が集中してしまうのである。加えて、キリンほどの首の長さになると、重力の手を借りずとも首を振る運動の遠心力だけで、頭部に大量の血液が流れこもうとする。
つまり、設計上重要なのは、血液を脳に向けて打ち上げる力任せのポンプではなく、どんな姿勢でも身体中に血液を妥当に確保する、心臓と血管全体のシステムなのだ。だから、ヒトは、これ以上無闇に心臓を大きくすることはないだろう。そんなことより、ヒトの多様な姿勢や運動に対しても、いつでも血液を調整可能な状態に保ち、適切な血液供給を継続することが、進化史に課せられた設計変更の命題だったのである。二足歩行に伴う、脳への血液供給は、貧血と並行して、血流調整という難題を抱えたといえる。地上五メートルまで脳を持ち上げてしまったキリンと、身体の割には極端に大きな脳を一五〇センチの高さに掲げる私たちヒト。両者を比べて、どちらの心臓が苦労しているかという問いはナンセンスだろう。ただ、少なくともヒトの心臓には、あまりにも悪条件下での仕事が生涯待ち受けているといってよい。

人体 失敗の進化史 P203『第四章 行き詰まった失敗作』 より

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