思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『人体 失敗の進化史』からの引用2

このお話の通りなら、物凄い流用っぷりです。力業すぎて、これだと神の所業を感じることが出来ないですね。

実際、多くの爬虫類はアブミ骨だけでしっかりと音を聴くことができたのだろう。ところが、中にはそれだけでは音を聴く能力に”満足しない”連中も現れた。私たち哺乳類の祖先だ。私たちの遠い祖先は、よりよく音を聴くために、二つ目三つ目の耳小骨を欲しがることになった。だがそんなものを、無から設計するわけにいかなかったのだろう。進化の歴史はまた行き当たりばったりに材料を探し出して、新たな役割を与えるという設計変更に頼る。もとい、この場合、”暴挙”といっても過言ではないだろう。およそ二億年前の初期の哺乳類が白羽の矢を立てたのは、まだ顎の蝶番を作っていた関節骨と方形骨である。この蝶番のペアを顎関節から”ヘッドハンティング”し、耳の奥に送り込めば、理想的な耳小骨の機能強化が図られるのである。大雑把に考えて五〇〇〇万年くらいの時間を要したことだが、初期の哺乳類は、上顎側にあった方形骨からキヌタ骨を、下顎の後端についていた関節骨ツチ骨を作り上げてしまうのだ。新しい耳の材料として、手近にあった顎の関節の骨を使うという”発想”は、優れた機械を設計する工学エンジニアのセンスとは、まったく異なっている。私たちの祖先の乱暴な形作りには、確たる理念は見出だせないだろう。むしろ、新しい耳の材料に顎関節が選ばれた理由を探すとすれば、単に、顎の蝶番から耳の奥までは、”目と鼻の先”といってもいいくらいすぐ近くだからだということしか、考えられないくらいだ。
こうして、またもや初期の”狙い”とは異なる役割を果たすパーツが、私たちの身体に加わったことになる。関節骨と方形骨は、あくまでも頭の一部として、それも上下の顎を接続する重要なパーツとして存立したはずだ。それが時間とともに耳の奥に閉じ込められて、鼓膜の微かな震えを拾うためのテコに化けてしまったのだ。進化とは、かくも予測外のことを平気でやってのける。しかもその結果は大成功で、出来上がった耳は、聴覚装置として哺乳類の生存と発展を二億年以上支える、重大な使命を果たし続けているのだ。

人体 失敗の進化史 P67『第二章 設計変更の繰り返し』 より

人体 失敗の進化史 (光文社新書)

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