思考の消化器官

色々な感想文とか。生活のこととか。

『皮膚感覚の不思議』からの引用2

痛みを感じても逃げることが出来ない、というのはツラいですよね。犬好きとしてはこの文章を読んだだけで、内容と関係なく「犬逃げてー」と思ってしまうのですが…。動物を使って行われた実験は色々ありますが、古い時代のものは特に、興味深いと同時に、人間って…という気持ちにさせられます。

前述のメルザックは、同じ親から生まれた仔イヌを、一匹ずつ隔離して育てた。こうして育てられたイヌは、兄弟といっしょに育ったイヌと違って、体をぶつけたり、擦りむいたりする経験をほとんどもたずに成犬になっていく。またそのような痛みを経験したとしても、それをどのように解釈するか、すなわち安心していてよいのかといったことを、親や兄弟などから学ぶ機会も奪われることになる。
すると彼らは、身に危険が降りかかってくるような事態に対して、正常な防衛反応や逃避行動を示すことができない。たとえば、燃えているマッチの炎の中に繰り返し鼻を突っ込んだり、尖った棒で身体をつついても、それを避けようとする行動をほとんど見せなかった。それに対して兄弟といっしょに育ったイヌは、危害が加えられそうになると、それを敏感に察知し、興奮して逃避行動を示した。
隔離飼育されたイヌは、痛みを感じることができなくなってしまったのだろうか? いや、そうではなさそうだ。強い電気ショックを与えると、彼らは激しく興奮して、そこから逃れようとしたからである。
つまり、隔離飼育されたイヌも「痛み」を感じてはいるのだが、それを身に危険が迫っている事態として捉えることができないのだ。彼らはすべての刺激に対して同じように反応してしまう。成長する過程で痛みの経験が少なく、他者の反応から学習する機会がない、ということは、周りの環境の危険性を学習する機会がなかったということになる。

皮膚感覚の不思議―「皮膚」と「心」の身体心理学 P69『2-2 触覚と固有感覚』 より

皮膚感覚の不思議―「皮膚」と「心」の身体心理学 (ブルーバックス)

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